がん発症のリスクを下げるには
今は、二人に一人ががんになる時代と言われています。
中には、2回も3回も種類の異なる悪性腫瘍に罹患する方もいます。がんになりやすい体質があるのでしょう。どうすれば、がんにならないでいられるのか?
胃がんや肝がん、子宮がんなどは、ウイルスや細菌の慢性感染から発症することが多いことがわかり、それに対する治療も発達してきています。感染以外で発症するがんの対策はどうしたらよいのか?生活習慣改善は、役に立つのだろうか?これらの答えを探して、たくさんの研究が行われてきました。方法としては、がんになった人の生活習慣を調べ、がんにならなかった人たちと比較したり、ある地域全体で大勢の人に参加していただき、その人たちの生活習慣や健康状態を毎年記録し、10年、20年と追跡することでがん発症の危険因子を探していきます。
生活習慣のうち、これまでで がん発症と関係が確からしい因子は、運動です。運動により、がんリスクが低下する、がん罹患後の生存率が上昇すると報告されています。特に、大腸がんと乳がんでリスク低下が明らかとの報告がありますので紹介いたします。
まず、運動量の定量化が必要です。好気的運動(エアロビクス)の範囲では、運動量は、全身の酸素消費量に比例します。酸素消費量は、吸気中の酸素量から呼気中の酸素量を差し引いて求めます。これは、ガスマスクのようなしっかりしたマスクをして機械につなげば測定できますが、けっこう大変です。そこで安静時の酸素消費量を 基準、1 メッツ(METs,metabolic equivalents代謝等量)とし、運動強度をこの何倍になると便宜的に表現します。散歩は、3 メッツ、水泳は、6メッツ程度だそうです。詳しくは、こちらをご覧ください(https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-kiso/undou-energy.html)
運動量は、これに運動した時間をかけて、メッツ 時間となり、1週間にどの程度運動したかは、メッツ 時間/週(METs・h/w)となります。ここでは、分かりやすいように(運動)単位/週としましょう
大腸がんについては、S状結腸や直腸のような下部大腸がんの発生率が運動で低下するとの多数の報告があります。大規模な多施設共同研究によれば、6 単位/週以上の運動をしている人での大腸がん発生率が何と40%下がるそうです。18単位/週(散歩を週6時間)以上の群では、さらに低下するとのこと。男女差は、あまりないという報告が多いですが、男性、特に、オフィス労働者で運動との相関が強いとのこと。女性では、あまり明瞭ではありませんが、閉経後の女性では、有意とのこと。逆に、オフィスワークを10年以上している人は、大腸がんリスクが高いという報告もあります。
乳がんでは、3–6 単位/週の運動で特に若年女性で乳癌発症率が下がると報告されています。他の研究によれば、運動と乳癌リスクの関係は、閉経後の女性で明瞭と報告され意見は分かれています。 29年にわたる大規模データ解析によれば、 6 単位/週以上の運動をしている人では、 3 単位/週の人に比較して乳癌リスクが20%低いとの結果です。この研究では、閉経前後で差がないと言っています。ある研究では、運動習慣のない体重超過の50-75歳の閉経後女性に協力してもらい、4群に分け比較しました。第1群は、中等度から高度の運動群、第2群は、ダイエットだけ、第3群は、運動とダイエットの両方、第4群は、何もしない群です。解析の結果、運動群(第1,第3群)では、体重減少が得られましたが、同時に、血中女性ホルモン(エストロゲン)低下がみられたそうです。この結果から、女性ホルモンの低下と乳癌発症率の低下が関係するのではと考察されています。
運動すると筋肉からサイトカイン(IL6,IL8,IL15など、マイオカインと総称)が出てくるそうです。これがTNF-αなどの炎症性のサイトカインに拮抗することが発がんリスクの低下につながるのでないかと考察されています。激しい運動をすると男性ホルモン(テストステロン)が増え、筋肉増強作用があります。反対に糖尿病では、免疫が低下することが知られています。また、コロナ重症化は、肥満者に多いと言われます。運動と免疫機能との関係も重要と思われます。
以上、週に6単位(メッツ)の運動で大腸癌と乳がんリスクが下がるそうです。
週2時間以上の少し速足の散歩に出かけましょう。