(第1回 院長通信)日本人とがん
ご存知のように日本人の死因の第1位はがんで、1981 年から連続して死因のトップです。2022 年のがんによる死亡者数は 38 万 5,797 人、死亡総数の 24.6 %で、概ね 1/4 を占めています。ひと頃、日本人の 1/3 はがんで死ぬと言われていましたが、治療法の進歩によりがん全体の予後は少しずつ改善します。でも、依然として第1位なのです。
人口動態統計 2022 年(厚生労働省)
がんとは、DNAの変異により細胞死(アポトーシス)からの回避と細胞増殖の活性化を生じたことによって発生する遺伝子病です。DNA変異が起こった場合、軽微なものは修復されますが、修復できない場合はアポトーシスによって排除されます。ところが、がん細胞はアポトーシスを司る経路の変異(不活性化)によってアポトーシスを免れ、細胞増殖を司る経路の変異(活性化)によって無限の増殖能を獲得し、そして周囲へと浸潤して転移するのです。因みに、発がんに関わるDNA変異をドライバー変異(バスの運転手)、発がんに関わらないDNA変異をパッセンジャー変異(バスの乗者)と呼ばれます。
DNA変異の原因には細胞分裂の際のDNA複製のミスの場合と、タバコ、アルコール、紫外線や放射線、感染症、肥満などの外的要因によってDNAに傷が入る場合とがあります。DNA複製のミスは多細胞生物の宿命とも言えるもので、数学モデルからがんの約 2/3 はこれに因るとの推測がありますが、一方で疫学的研究から 40 %程度のがんは予防可能だとも言われています。従って、概ねがんの半分はDNA複製のミス、残りの半分は外的要因によって発生すると考えて良いでしょう。
がんが発生する臓器別での死亡者数を見ますと、多い順から、男性は肺がん、大腸がん、胃がん、すい臓がん、肝臓がん、女性は大腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、胃がんとなります。
国立がんセンター がん統計 2023 年
がんの臓器別の死亡者数は、主にがんが発生する臓器別の頻度と、治療に対する反応性という2つの要素で決まります。そこで、代表的ながんの治療に対する反応性を 5 年生存率で比較してみますと、発生する臓器によって反応性は大きく異なっていることが分かります。なかでも、治療の効果が得られにくく、治りにくいがんとして、5 年生存率が 50 %以下のものを難治性がんと呼んでいます。
2021 年 全国がんセンター協議会集計