(第9回 院長通信)私の研究その5
今後の展開1
VASH2ペプチドワクチンによってVASH2の作用をブロックすることでがん転移の制御が可能となることから、VASH2ペプチドワクチン療法の実用化を目指していますが、ではVASH2はどのようにしてがん転移に関わっているのでしょうか?
がん転移は、がん細胞が運動性・浸潤性を獲得することに起因します。そして、がんの運動性・浸潤性獲得は「上皮間葉転換」によって引き起こされるのです。がんは上皮系の細胞から生じます。正常の上皮細胞は、接触している隣同士の細胞が互いに密に接着していますが、細胞のがん化に伴って上皮間葉転換が生じると細胞同士の接着が緩んで運動性を増し、タンパク分解酵素によって基底膜などの細胞外基質を溶かしながら周囲へと移動(浸潤)して、血管やリンパ管に侵入することで転移を来すのです。VASH2を阻害すると、この上皮間葉転換が生じにくくなることでがん転移が抑制されるのです。

がん転移はがんの進行度を測る重要な指標ですが、死に直結するかと言うと、そうとは言い切れません。全身転移を起こしながら長く生き永らえる患者さんがおられるかと思うと、それほどの転移が無くても急死される患者さんもおられます。最近、この理由を説明できるような興味深い論文がNature Medicine誌に掲載されました。大腸がん、肺がん、卵巣がん、肝がん、膵がんなどで死亡された患者について、何が死に直結したかを調査したところ、がん転移ではなく、大血管へ浸潤したがん細胞が塊となって血管内に多量に流入することで心臓や脳など重要臓器への血流障害を起こすことが直接の死因であることが明らかとなったのです。この知見は、がんがどこに発生したかがおそらく重要で、大血管の近くに生じたがんほど、大血管への直接浸潤とそれに伴う致死的なイベントを起こし易いことを意味しているのであろうと考えられます。
がんの浸潤・転移は、がん細胞の上皮間葉転換によって引き起こされるもので、VASH2ペプチドワクチンは上皮間葉転換を制御することでがん転移を抑制します。とすれば、VASH2ペプチドワクチンはがん細胞の大血管への浸潤も抑制できるであろうと考えられます。このような観点から、VASH2ペプチドワクチンはがん患者の生存期間延長にも寄与できるであろうと期待されるのです。


