(第7回 院長通信)がん治療におけるBAK療法の位置付け:その2

 

 免疫チェックポイント阻害剤は、それ単独での効果には限界はあるものの、従来の標準療法では得られない効果の故にノーベル賞の対象になり、がん治療における免疫療法の有用性を広く周知させました。しかし、がん免疫療法自体は、それ以前からがんワクチンや免疫細胞療法として行われてきていたのです。

 がんワクチンはがん抗原を投与してCTLを誘導する治療法です。一方、免疫細胞療法は、患者さんから免疫細胞を採取し、体外で培養・増幅して患者さんに戻し、がん細胞を直接攻撃させる治療法で、主なものにT細胞療法、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)療法、複合免疫細胞療法があります。

 T細胞療法では、特に最近、特定のがん抗原を標的とし、HLAクラス1の発現がなくても攻撃できるように遺伝子改変したCAR-T細胞療法が開発されて注目されています。現在、治療対象は一部の血液がんに限られますが、今後適応は拡大することでしょう。ただ、決められたがん抗原を標的とするため、がん抗原の変異による耐性が問題となります。

 NK細胞療法は、自然免疫系のNK細胞を用いるもので、抗原提示の必要がなく、HLAクラス1の発現が低下・消失した、いわゆるmissing-selfのがん細胞を攻撃します。

 がんを攻撃する免疫細胞には自然免疫系のNK細胞、獲得免疫系のナイーブTから生じたキラーT細胞のほかにガンマ・デルタT細胞があります。ガンマ・デルタT細胞は自然免疫系と獲得免疫系の両方の性質を併せ持つ細胞で、抗原提示を必要とせず、HLAクラス1の発現に関わりなく、がん細胞が発する異常シグナル(メバロン酸代謝経路のイソペンテニルピロリン酸IPPなど)を感知し、NK細胞とは異なるスペクトラムでがん細胞を認識・攻撃する細胞であり、さらに他の免疫細胞を活性化して免疫システム全体を強化するなど多彩な機能を有しています。

 

 複合免疫細胞療法の草分けであるBAK療法は、NK細胞、ガンマ・デルタT細胞、キラーT細胞を含んでいることで、広範ながんに対して奏功することが確認されています。しかも、BAK療法を繰り返すことで、NK細胞とガンマ・デルタT細胞によって攻撃されたがん細胞からその都度がん抗原が遊離し、体内の樹状細胞による抗原提示によってナイーブT細胞からCTLの誘導が繰り返されるため、がん抗原の変異にも対応できるのです。

 BAK療法は開発されて20年、効果と安全性は実証されていますが、免疫チェックポイント阻害剤の登場や放射線治療によるアブスコバル効果(免疫系を活性化する効果)の機序が明らかとなってきたことで、それらとの併用によってより強い抗腫瘍効果が期待されます。このようにバージョンアップすることで、まさに免疫系のオーケストラを多面的に作動させるがん治療が可能となるのです。