がんワクチン療法 

がんは、遺伝を含めた様々な要因により、遺伝子に異常が生じたことで発生します。細胞分裂のコントロールに異常が起きたのががんです。細胞分裂は、皮膚で考えればわかりやすいです。皮膚の深部に基底層というのがあり、ここで毎日新しい細胞が生まれています。細胞分裂により新しい細胞が生まれると、その表層にあった細胞は表面に押し上げられていき、最後には垢やフケとして皮膚から剥がれ落ちるというサイクルを繰り返しています。皮膚に傷がつくと細胞分裂が 高まり、傷が治ると細胞増殖速度は元に戻ります。つまり細胞分裂は、皮膚をちょうどよい厚さに保つよう制御されています。この制御がうまくいかなくなったのが がんです。細胞分裂を制御する遺伝子に傷がついたことから、細胞分裂が無秩序に繰り返されがん細胞が増えていきます。

体の中では、細胞に酸素やエネルギーを与えるため血管が網の目のように張り巡らされています。がん細胞があまりに増えてしまうと風船のように圧が高まり、自分へのエネルギー供給に必要な血管までも押しつぶされ、酸素不足になり、自分自身が死んでしまう(壊死と言います)という無秩序な状態に陥ります。

抗がん剤の一種である血管新生阻害薬は、がんの壊死を増やすことによりがんを縮小させるものです。遺伝子異常は、細胞分裂だけを異常にさせるものではなく、ほかの遺伝子にも異常が起きることが通常です。

遺伝子のもっとも重要な役割は、細胞膜や細胞内小器官を構成するたんぱくや酵素の合成です。つまり、タンパク合成がうまくいかなくなり、異常タンパクができてくるのです。このことは以前から知られ、がん化による血中に出現する異常タンパクを腫瘍マーカーとして診断に利用してきました。異常タンパクを治療に利用しようとするのが、がんワクチンです。Tリンパ球などのキラー細胞は、ウイルス排除など強力な細胞殺傷能力を持っています。

ウイルスは遺伝子の破片のようなもので、細胞内に入ると勝手に自分用のたんぱく質を作り出します。この異常タンパクを見つけるのが、樹状細胞などの抗原提示細胞で見つけた抗原をT細胞に教え、この異常タンパクを持った細胞を排除するよう指示します。この結果、細胞対細胞の戦いが始まるのです。

樹状細胞は骨髄で作られ、血中に出てきます。最初は丸い形(単球)をしていますが、刺激を受けるとアメーバのような沢山の突起を出すようになります。しかし、数が非常に少ないこと(白血球の 1%以下)とがん細胞がウイルスと違い抗原性が低い(樹状細胞が見つけにくい)ことから、身体から取り出して樹状細胞を濃縮し、がん抗原と一緒に培養して、樹状細胞にがん抗原をおぼえこませてから身体に戻すという治療が考え出されました。これが樹状細胞がんワクチン療法です。その他、がん抗原だけを注射する治療も行われます。

 今年4月に米国がん研究協会年次総会(AACR 2021、オンライン)において、米国マウントサイナイ病院のTマロン博士から、遺伝子工学を用いたがんワクチンを開発し、第1相臨床治験についての報告がありました。13人が7回以上(最大10回)のがんワクチン注射を受け、うち4人が無病生存しているとの発表です。

まだ、2年半の平均追跡期間での中間報告ですが今後に期待されます。

 

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